『マリス博士の奇想天外な人生』

野心的な科学者

いまや、科学における象牙の塔は腐敗している。それは官僚組織が科学を職業化し、運用することによって、経済的なメリットが生み出されることに気づいたからである。第二次世界大戦の直前、政府は科学に巨大な投資を開始した。科学者や技術者は新しい重機や精密機械、より強力なエンジン、より硬い材料を作り出した。より速く飛ぶ飛行機を作り、それを見つけだすレーダーを作り、撃墜するための対空砲を作り出した。撃墜されて負傷したパイロットを救命するために抗生物質を作り、眠気で仕事を怠けるのを防ぐため覚醒剤を作り、労働時間を増やすため夏時間制を敷き、とうとう最後には原子爆弾を作り出した。第二次世界大戦は劇的かつ悲惨な終結を迎えた。

科学者たちは自分が世間とは無関係でないことを思い知った。実際、科学者は過去に一度も、象牙の塔にこもって理屈をもてあそんでいるだけの高等遊民であったためしはない。野心的な科学者が手段をもてば、原子爆弾を作り出し、神に対する人々の畏れを暴君アッチラに対する恐怖へと変えてしまうことができるのだ。科学は戦後世界のパワーバランスを決定する力をもちはじめた。政府はますます巨大科学に金をつぎこみはじめた。

(キャリー・マリス著・福岡伸一訳『マリス博士の奇想天外な人生』早川書房、2000年)

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