『マリス博士の奇想天外な人生』

地球を守ってくれるお偉方

科学シンポジウムを企画し、マスコミに話題を提供することで、リッチなサラリーを受け取っている人種とはいったい何者なのだろうか。彼らは政治家ではない。そもそも政治家は科学のかの字も理解などしていないのだ。政治家は物知り顔に振る舞いたいだけである。そのため、政治家にレクチャーする人々が必要となる。そのような人種とは何者なのだろうか。これを見きわめることが重要なのだ。彼らこそがわれわれの生活を操作しているのだから。彼らは差しせまった問題があると騒ぎたて、それが国家事業によって防御しうると主張する。政治家がそれに向けて行動するように啓蒙を行なう。

こういう人種は経済学や社会学の学位をもっているものの、優良企業のよいポジションに就職できなかった連中であり、一種の寄生虫である。毎年毎年、われわれを思い悩ませる課題を作りだす元凶が彼らである。しかし、彼らが作り出す課題はどれも絵空事にすぎないのだ。ちょうどお笑い番組の間に流れるコマーシャルくらい非現実なものである。オーストラリアかどこかの奥地で、さも頭の悪そうなマッチョ男がハリウッド美女を従えて、四輪駆動車を運転してみせるCMがあるが、あれではその車の利便性は何も分からない。それとまったく同程度の絵空事なのである。

ではいったい、そういった人間に誰が金を払っているのだろうか? 国連がわれわれの税金で支援している国際気象観測機構? あるいは政府の環境保全局? そもそもここは、ある魚種が絶滅しかけているとの理由で工場閉鎖を強要し、従業員が別の部署に配置転換させられるという労働問題を生みだし、そのことで非難されている組織である。あるいは環境保護団体が金を払っているのだろうか?

われわれは疲れ果てて仕事から帰ってくると、とてもそんなことを詮索する気にはならない。・・・・・・われわれはそんなことを心配せずにぐっすり眠ればよい。この地球はお偉方がしっかり守ってくれるから、というわけだ。そのお偉方こそが、沈まぬ太陽のごとく無謬(むびゅう)を誇る官僚機構であり、また今日、特に環境論者と呼ばれている人々なのだ。

(キャリー・マリス著・福岡伸一訳『マリス博士の奇想天外な人生』早川書房、2000年)

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