天皇は「東条にだまされた」と語った(3)
また天皇は「われわれはスターリン書記長の人格に大きな信頼をよせていた」と語ったことがあるという。(モズレー『天皇ヒロヒト』)
いったいあの20世紀最大の極悪人とされるスターリンに「人格」などというものがあったのだろうか。ソ連の誠意は信じがたいとも天皇は内輪だけの『独白録』ではいっている。モズレーのいうとおりであれば、この発言の狙いはスターリンに対するゴマすりでしかないであろう。
前にも記したように、ソ連がドイツ軍との戦いで敗色が濃いときを狙って、背後から火事場泥棒的にソ連をおびやかすために日本は「関特演」を行なった。数十万の兵を動かしたこの大動員は、大元帥たる天皇の命令によるものであった。
ソ連が中立条約を破って日本に宣戦布告をしたことを非難する意見があるが、これだけのことを日本がしていたのでは、国際法的にソ連に対して中立を期待するのは図々しい。
さらにまたシベリア出兵にしてもノモンハンにしても、しかけたのは日本軍であった。やられたほうはちゃんと覚えていて、スターリンは日本の敗色がはっきりしたときにやり返したのである。ソ連の捕虜虐待は犯罪行為であることはまちがいないが、日本にやり返したことには正当な理由がある。
ところでアメリカの世論調査では戦争直後天皇戦犯論が圧倒的に有力であったが、マッカーサーにもアメリカ本国政府にも、戦犯として天皇の責任を追及する意図はなかった。この「意思の弱い」天皇はうまく利用できるという考えがあった。
マッカーサーは、「天皇は20個師団、最小限に見つもって100万人の占領軍の力をもっている。政治的配慮で戦犯リストから除外すべきだ」と主張しつづけた。天皇に責任がないとしたわけではない。「弱味のある人間は徹底的に利用する」というのが、マッカーサーも一員である「フリーメーソン」の憲法であった。
(鹿島曻『昭和天皇の謎』新国民社、1994年)