『マリス博士の奇想天外な人生』

エイズの真相(2)

アメリカの田舎に育った若者を想定してみよう。彼の人生の目標は、高校を卒業したら空軍に入り、ジェット機のパイロットになることである。彼は高校の間中、決して麻薬に手を出すこともなかった。彼には同い年のかわいい彼女がおり、結婚するつもりでいた。しかし本人も周囲の誰も知らなかったが、彼はHIVの抗体を有していた。それは彼の母親から受け継がれたもので、感染したのは彼が母のお腹の中にいたときだった。母親にも病気の徴候はない。彼はごくふつうの健康的な若者で、これまでの人生で彼を悩ませるものは何もなかった。しかし、規則どおり空軍でHIVの検査をした時点で、彼の希望と夢が打ち壊されてしまった。彼は空軍を除隊になると同時に死の宣告まで下されてしまったのだ。

CDCはHIVに対する抗体を検出する検査で、陽性の結果にともなう30以上の症例がエイズであると定義した。しかし同じ症例でも、抗体が検出されない場合、エイズとはみなされない。たとえば、もしHIV陽性の女性が子宮ガンになると、彼女はエイズに患ったとみなされる。しかし、もし彼女がHIV陽性でないのなら、彼女は単なる子宮ガンである。HIV陽性で結核を患った男性はエイズであるが、もし彼が陰性なら単なる結核だ。ケニアやコロンビアの住民は、HIV抗体に対する検査があまりにも高価なので、症状さえあれば、HIV陽性とみなされ、エイズと診断される。その結果、WHO(世界保健機関)の診療所で治療を受けることができる。そこはそのあたりで利用できる唯一の医療機関である。しかも無料だ。WHOを支援している国々がエイズを憂慮して資金を出しているからである。貧しき人々の住んでいる地域に医療の手がひろがるという観点では工イズは恩恵なのだ。米国ではエイズ患者には治療薬としてAZTが投与されるが、貧しい人々には与えられない。AZTがとても高価だからだ。現地人がナタで左膝を切ったのを治療し、それをエイズと呼んでいるにすぎない。

(キャリー・マリス著・福岡伸一訳『マリス博士の奇想天外な人生』早川書房、2000年)

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